ご家庭で”ぬか漬”をしている方も多いのではないでしょうか。
ここでは、京都の老舗漬け物店、「京都なり田」が”ぬか漬”とは何か、その歴史や健康への効果等についてお話しします。
“ぬか漬”におすすめの野菜や作り方も併せて紹介します。
“ぬか漬”とは?
「広辞苑」で調べると、ぬかに塩、水などを混ぜて野菜を漬けること。
また、そのようにした漬物。ぬかみそづけ。と記されています。
“ぬか”は「米糠」のことで、玄米を精米して白米にする際、削ってしまう米の外皮を指します。
“ぬかみそ”は、ぬかに塩水などを加えて練ったもののことです。
壺などの容器に詰めることで「床」ができ、野菜を保管しておく「ぬか床」と呼ばれるようになりました。
“ぬか漬”の歴史
“ぬか漬”は江戸時代から広く伝わっていったと言われています。
そこには、精米技術の発達が関わっています。
玄米から米糠を分離することが容易になったことが考えられます。
漬物の中では、比較的歴史が浅いことも意外かもしれませんね。
では、なぜ日本で広がったのでしょうか?
欧米のピクルスや韓国のキムチなど、漬物文化は海外にも存在します。
ですが、日本ほどバリエーション豊かな漬物を食べる民族は珍しいと言われています。
その背景として、日本の”四季”が関係しています。
春夏秋に収穫した多彩な農作物を、作物が育たない冬を乗り越えるために保存して食べるという「知恵」が、”ぬか漬”などの醗酵文化を生み出しました。
“ぬか漬”の発祥の地って?
“ぬか漬”の発祥の地は北九州だといわれています。
江戸時代から米ぬかを漬け床として使うようになった後、北九州小倉城藩主である「細川忠興」がそれを食べ、城下の庶民にも”ぬか漬”として広まっていったそうです。
北九州では”ぬか漬”ではなく「床漬け」とも呼ばれています。
“ぬか漬”には、その地域ごと、作り手ごとに特色があります。
気候風土、作り手の思いや好みによって、味や食材が多岐に広がります。
その土地に棲む微生物の働きによって旨味が生まれ、心身ともに人間に良い作用をもたらします。
“ぬか漬”の持つ醗酵の力
日本は世界でも有数の醗酵大国です。醗酵とは、目に見えない微生物が、食材を人間にとって有益に変化させる働きのことです。
一般的に、日本では味噌や醤油などが例としてあげられます。
“ぬか漬”の醗酵の力、それは”米糠”にあります。
野菜類には、もともと乳酸菌や酵母菌等の微生物がついています。
“米糠”はその微生物たちのエサの宝庫でもあり、増殖を繰り返すのです。
増殖の中で、人間に良い影響を与える成分が生まれ、野菜そのものの栄養価も高められます。その微生物が織りなす一連の働き=”醗酵”なのです。
野菜の保存食として最適でもあるため、今日まで受け継がれてきました。
“ぬか漬”に含まれる栄養素とその効果
“ぬか漬”は、ただ漬けて美味しいだけの食品ではありません。驚くほどの栄養や成分がたくさん含まれています。
また、野菜を”ぬか漬”にすることで、ぬかの栄養分が吸収され、ビタミンB1が約10倍に増えることがわかっています。
ビタミンB1は、皮膚や粘膜の健康維持や糖質からのエネルギー生産を助ける栄養素です。
そのほかにも、ビタミンB2やビタミンE、植物性乳酸菌などの栄養素が豊富に含まれています。
・ビタミンB2:糖質や脂質、タンパク質を体内でエネルギーに変える役割、代謝を支える働き。
・ビタミンE:抗酸化作用をもった栄養素。老化や生活習慣病の原因となる活性酸素から身体を守る働き。
・植物性乳酸菌:植物由来の乳酸菌。生きて腸まで届く強い菌。免疫力の向上や美肌効果が期待できる。
“ぬか漬”におすすめの野菜は?
基本的には、”ぬか漬”に向いていない野菜はないといわれています。
どんな野菜でも、「ぬか床」さえしっかりと作れば美味しく食べられます。
では、”ぬか漬”に合う野菜の条件ってなんだと思いますか?
1つは、歯ごたえがしっかりしていること。
コリコリやシャキシャキしている野菜は、”ぬか漬”にしても絶品です。
次に、しっかりと漬かりやすいこと。
味も染み渡り、噛んでも旨味が損なわれないのが大切です。
ですが、歯ごたえがなかったり、漬かりにくい野菜が美味しくないわけではありません。
野菜それぞれに魅力があります。
“ぬか漬”をする際に、いろいろな野菜で試してみてください。
きっと新しい発見があるかもしれません。
ここでは、”ぬか漬”の定番の野菜と変わり種をいくつかご紹介します。
漬け方や時間もまとめてみました。あくまで目安です。
大事なのは、自分の舌で味を見ることです。
〇定番〇
胡瓜/大根/人参/茄子/白菜
〇変わり種〇
茗荷/パプリカ/オクラ/アボカド/ゆで卵
各野菜の漬け方と漬け込み時間
定番の野菜 | 切り方 | 時間 | 一言 |
---|---|---|---|
きゅうり | そのままor半分に切る | 8〜15時間 | ぬか漬けの代表格 |
なす | 半分に切る | 10〜24時間 | なすの色落ちは、塩もみで防げます。 |
大根 | 皮付きのまま四つ割り | 20〜30時間 | 歯ごたえや食感の良い、冬大根を使う。 |
白菜 | 半分or四つ割り | 1〜2日 | 水分が多いので、塩で下漬けしてから漬ける。 |
人参 | 皮付のまま四つ割り | 20〜30時間 | 皮の方に多くの栄養分が含まれている。 |
変わり種 | 下処理 | 時間 | 一言 |
---|---|---|---|
ミョウガ | 根元に縦の切り込みを入れて、そのまま漬ける。 | 12〜24時間 | 独特の味と匂いは、ぬか漬との相性も◎ |
パプリカ | 縦半分に切る。ヘタと種を取って洗い、水気を切る。 | 12時間 | ぬか漬にしても色鮮やかに漬け上がる。 食感も程よくしんなりとシャキシャキ感も残る。 |
オクラ | 軽く塩を振って板ずりする。うぶ毛をとり、生のまま漬ける。 | 12〜24時間 | 小ぶりで緑色の深いものを選ぶ。 |
アボカド | きれいに洗って縦二つ割にし、種を取り皮を下に漬ける。キッチンペーパーで巻いてぬか床へ。 | 12〜24時間 | 濃厚さが増してチーズのような味わい。少し固めのものを選ぶ。 |
ゆで卵 | 茹でてから、殻をむいて丸ごと漬ける。 | 12〜24時間 | 程よい塩味で、燻製のような独特な香り。絶品。サラダやおつまみに◎ |
ぬか漬”の美味しい作り方って?
そもそも”ぬか漬”の作り方知っていますか?
“ぬか漬”の命ともいえる「ぬか床」。「ぬか床」作りで大事なポイントは4つ。
・基本の材料は「生ぬか」を使う。
・均一に塩水、材料を加える。
→ぬかに塩水を少しずつ加える。良く混ぜながら均一に水を含ませる。
隠し味に実山椒,唐辛子(防腐作用),かつお節(風味付け)を加える。
・「捨て漬け野菜」を漬け込む。
→キャベツの外葉や人参・大根の皮や切れ端などの「捨て漬け野菜」を漬け込む。
野菜くずを入れることで、ぬかの醗酵を助け、塩分をまろやかに。
最後に表面をならして、昆布や煮干し(旨味アップ)など硬いものを刺す。
・「ぬか床」を熟成させる。
→10日間、ぬか床を熟成させる。その間1日2回ぬか床をかき混ぜる。
捨て漬け野菜は、3~4日に1回取り替える。野菜の汁は絞ってぬか床へ加える。
※手間はかかりますが、ぬか床は育てているうちに、だんだん愛着がわいてきます。
丹精込めて作りましょう。
「ぬか床」を一から育てるのが面倒な人は、出来上がったぬか床入りパックも販売されています。
あらかじめ醗酵済みなので、そのまま野菜を漬ければすぐに食べることができます。
材料が揃った手軽なキットもあるので利用してみてくださいね。
ぬか漬を保存する容器は?
「ぬか床」を作るにあたって、保存する容器が必要ですよね。
ぬか漬の容器は、ニオイの移りにくいホーローや陶器、ガラスなどを使うのがおすすめ。
しっかりとフタができるものを選びましょう。
プラスチック容器(タッパーなど)は、手入れが楽で価格もリーズナブル。
透明タイプはぬか漬の状態が見えるのもメリットです。
これでなくては!というものはありません。
各御家庭で、ご用意できるものを使用していただければと思います。
“ぬか漬”漬ける時の大事なポイント
・野菜は塩もみしてからつける。
→野菜を塩もみすることで、早く漬かります。ぬか床が水っぽくなったり、
塩分が足りなくなることを防いでくれます。
・野菜を取り出すときは、ついでに手でぬか床を混ぜる。
・食べる直前にぬか床から出して洗う。
→洗って時間の経った”ぬか漬”は、水っぽく美味しくなくなります。
食べる前に洗って切<るりましょう。
※ぬかごと食べると栄養価UPでおすすめ!
・漬け時間を逆算して漬ける。
→”ぬか漬”はうっかりすると漬かりすぎてしまうことがあります。食べる直前に、取り出すことを考えると逆 算してちょうどよく漬かるように調整しましょう。
漬かりが浅いと感じたら、漬け時間を長くします。1日以上取り出せないときは、冷蔵庫に入れるなどして調整をします。
※ぬか床の中の菌に元気に活動してもらうためには、基本的に常温保存がおすすめです!
さいごに(まとめ)
“ぬか漬”は先人が生み出した知恵です。
次世代へとつなげていく日本の伝統食ともいえます。
“ぬか漬”の持つ栄養や醗酵の力は、私たちの健康を維持するためにも不可欠な要素です。
家庭でも気軽にできる”ぬか漬”。
日々の食卓の中で、免疫力を高めた食生活を心掛けたいですね。