すぐき漬、千枚漬と並ぶ、「京都三大漬物」の一つ「しば漬」。その歴史は古く、平安時代末期まで遡ります。
「京都三大漬物」を知っていても、それぞれがもつ歴史や由来、製法までは知らない方がほとんどだと思います。
私たちは、その各々がもつ歴史などを知ることで、先人たちが守り伝えてきた、京漬物の本当の味にたどり着けると信じています。
ここでは、京漬物を語る上で外せない、「しば漬」の魅力をご紹介したいと思います。
しば漬の歴史と由来
今では全国どこでも手に入り、定番の漬物の一つとなっているしば漬ですが、元をたどれば京都・大原の郷土料理でした。
「しば漬」は、大原の里人の心遣いからついた名前といわれています。それには大原が、古くから出家や隠遁の地として選ばれる静かな場所であったことが関係しています。
平安時代末期、「源平合戦」のあとで敗れた平家の娘である建礼門院は、平家が滅亡した後も生き残り、大原の寂光院に送られ出家します。
滅亡した平家一族と亡き幼い我が子を思いながら、一人寂しく余生を過ごしていました。仏に祈る生活を送る建礼門院に、里の人が差し入れたのが「しば漬」でした。しば漬の発祥地、大原は赤紫蘇の産地で、保存食の材料に使っていました。赤紫蘇と茄子で漬けられた漬物は、鮮やかな紫で彩が美しく、それを喜んだ建礼門院が「紫葉漬け(むらさきはづけ)」と呼んだことが由来になったと伝えられています。
もう一つに、「柴漬け」の字を当てる説もあります。これは、大原の産物であった柴を、「大原女(おはらめ)」と呼ばれる行商の女性が売り歩くことから呼ばれるようになったと言われています。
しば漬の製法
古来のしば漬は、赤紫蘇と茄子・塩のみで作られた、乳酸醗酵によってできる物でした。本来の作り方が、生しば漬(=微生物の醗酵によって作るため、味や品質を一定に保つのが難しい)であるのに対し、現在の市販品の主流が、調味しば漬(=調味液に漬けて酸味のある味付けをしたもの)へと変化しています。
しば漬の製法は、
- 野菜を洗って刻むなどして、塩で揉む。
- 塩で揉んだ野菜を絞り、重しをかけて置き、乳酸醗酵させる。
漬け込みの工程として、約1割の塩とともに混ぜ合わせて木樽に漬け込みます。重量が均等に加わるように重石をし、約1ヶ月間熟成を待ちます。
しば漬の美味しさは、この重石と塩の加減で決まるとも言われています。
なり田ではこの工程をすべて手作業によって、丹念に漬け込んでいます。
しば漬の乳酸醗酵とは?
酸醗酵の漬物は、空気中や野菜に付着した菌を利用して作り出しています。素材にとって好ましい環境に置かれた乳酸菌を、増殖するために乳酸醗酵を行い、その過程で「乳酸」を生成します。
乳酸はとても強い酸なので、塩分には強くても酸には弱い腐敗菌を弱らせます。これによって、添加物など使わなくても野菜の腐敗を防ぎ、長期の保存が可能となります。
そうだ、大原へ行こう!
京都駅からバスで約1時間、比叡山麓に広がる大原の里は「しば漬」発祥の地と言われています。かつて皇族や貴族が隠棲した地でもあります。今もなお豊かな自然が残り、四季折々の風景、地元で育まれた野菜やしば漬などの名産は、訪れる人々の心を癒しています。
夏になると、畑一面に広がる色鮮やかな赤しそ畑は、まさに必見です。
7月1日~31日までを赤しそ開きとし、赤しその即売や手摘み体験、赤しそを使った特別メニューの販売などのイベントも行われています。
「紫葉漬け」と名付けた建礼門院が、一生を終えた場所として有名な寂光院も併せて、足を向けてもらえると、その歴史的背景も知ることができます。
境内には、汀の池・汀の桜など平家物語にちなむ庭園があり、初夏は新緑、秋は紅葉に彩られます。
京都なり田の「しば漬」
私たちの商品の中にも、自慢の「しば漬」があるので、ご紹介します。
「大原紫葉」
大原の赤しそと茄子を塩のみで醗酵させた、本来の製法をそのままに漬け込んでいます。大原の赤しそが持つ美しい紫の彩を目で楽しみながら、無添加の深い酸味も同時に味わえます。
また、8月頃から9月にかけて、新漬の大原紫葉が漬け上がります。
「賀茂しば」・「賀茂しばきざみ」
本来の製法を守りつつもなり田独自のアレンジを加えた逸品です。
京野菜の代表”賀茂茄子”、赤しそ、南瓜、胡瓜、茗荷、生姜といった多種の素材を、塩のみで漬け込んでいます。醗酵した酸味に加えて、各素材の食感や味の違いも楽しめます。
夏限定!「浅しば」
胡瓜、茄子、南瓜など、野菜の自然の旨味を生かして色鮮やかに浅漬けにしています。浅しばを刻んで、生野菜と一緒に和えたサラダ仕立てもおすすめです。
冷やしうどんや素麺の中に入れて、めんつゆと絡めて召し上がってもらうのも、暑い夏を乗り切る夏バテ対策にもなります。
簡単!「賀茂しば きざみ」を使ったアレンジレシピ
「賀茂しば きざみ」タルタルソース
本来、ピクルスを使って作るタルタルソースですが、大胆にもしば漬を使ってアレンジしてみました。
ピクルスも漬け物なので、意外とマッチしておいしいのでおすすめです。
〇材料〇
ゆで卵・・・1個
玉ねぎみじん切り・・・大さじ山盛り1
☆マヨネーズ・・・大さじ山盛り1
☆ビネガー(酢)・・・小さじ1
☆砂糖・・・小さじ1
塩 胡椒・・・少々
賀茂しばきざみ・・・大さじ山盛り 1
〇作り方〇
- ☆の調味料を合わせておきます。
- ボールにゆで卵を入れて、フォーク等で細かく刻みます。
- 玉ねぎのみじん切り、賀茂しばきざみの分量を②に加えます。
- ☆の調味料を混ぜ合わせます。
- 仕上げに塩・胡椒で味を整えて完成です!
※今回は鱈のフライで挑戦しています。他にもチキン南蛮や唐揚げ、鯵フライに添えてもらっても、相性抜群◎
マヨネーズが賀茂しばきざみの酸味をまろやかにし、ビネガーと胡椒がタルタルソースにパンチを加えてくれます。
そして、何と言っても賀茂しばきざみの食感が絶妙です!
大原柴葉でもタルタルソースを作ってみました。
こちらは、チキン南蛮と合わせて。
紫蘇の香りが引き立ち、大原紫葉のもつ本来の酸味がチキン南蛮をさっぱりとした味へと変化させてくれます。
さいごに
「京都三大漬物」の中で、最も古い歴史をもつ「しば漬」。
昔ながらの製法(=生しば漬)から現在の主流(=調味しば漬)に至るまで、その歴史は長く、今もみなさんの日々の食卓に並んでいます。
同じ「しば漬」でも、生しば漬と調味しば漬では、味も製法も異なります。
「しば漬」の由来とされる「紫葉漬け」の「紫」は、建礼門院が大原の赤しそを見て、名付けたとされています。大原の「赤紫蘇」だからこそ色鮮やかにできたのです。
もし、ほかの食材だったら・・・緑の青しそを使っていたら・・・一族を失った建礼門院の哀しみを癒せていたのでしょうか。
私たちはその歴史に思いを馳せ、今日まで「大原紫葉」を昔ながらの製法で守り続けているのです。